万が一墜落したときに助かる確率が一番高い席はどこ?

空港でチェックインする際に、職員から「座席は窓側にしますか、通路側にしますか」と聞かれることがある。短距離飛行なら眺めのよい窓側を、長距離飛行ならトイレに立ちやすい通路側を、というのが良識的な選び方だが、もし可能ならば、「事故が起きたとき助かる確率の高い座席をお願いします」といってみたいものだ。

1985年8月12H、東京から大阪に向かっていた日本航空ジャンボ機が、伊豆上空から群馬県上空まで30分にわたって迷走飛行したあと、御巣鷹山に墜落し、乗客乗員520人が死亡した大惨事を覚えているだろうか。史上最悪の航空機事故に、全世界が驚愕し、悲嘆にくれた。このとき、奇跡的に助かった乗客が後部座席に座っていたことが、当時、日本のメディアでずいぶん話題になったと聞いている。この報道のため、後部座席のほうが安全性が高いのではないかと、多くの人が考えたというのだ。

では、一般的に後部座席が他の座席に比べて安全なのかというと、実際にはそういったデータはない。飛行機事故の原因はさまざまで、たとえば機体後部の天井が剥がれるといった事故にあえば、当然、後部座席の乗客は不利になる。どのような事故にあうか予測できない以上、どの座席も等しく危険あるいは安全、というしかない。

座席の位置どりはともかくとしても、座席そのものか十分に安全なのかどうかという問題は、すべての乗客に共通する関心事といえるだろう。座席には、不時着などの緊急時を想定し、ある程度の衝撃に耐えられるよう強度基準が定められている。基準は製造年や国によって多少の違いはあるものの、一般的には前方に16G、下方に14Gと決まっている。

ここでいう「G」とは重力の単位だ。通常私たちが受けている重力は1Gである。これが2Gになると、自分の体重が2倍の重さになるほどの重力を受けていることになる。簡単にいえば、強度基準をクリアしていれば座面に体重の14倍の力がかかっても、また、背もたれに体重の16倍の力がかかっても、壊れないだけの強度があるということだ。

ただし、基準の計算に使われている標準体重は77㎏であり、これよりも重い人が座ればGの値は大きく、軽い人が座ればGの値は小さくなる。座席はふつう2~3人が一緒に座るので、隣に超重量の巨漢が座ったら座席の安全性が低下するのでは、と心配する人もいるだろう。でも、ご安心を。標準体重の2倍もあるような人は体格もそれなりに大きいはずで、1人分の座席に体が収まらず2~3人分の座席を確保することになる。つまり、巨漢と相席になることはまずないということである。

— posted by 渉 at 10:17 pm  

旅客機は急旋回ができないの?

航空機事故でよく聞くのが「何らかの理由で急旋回を余儀なくされた旅客機が失速し、墜落した」という話だ。1998年12月11日にタイ南部のスラタニ空港付近でタイ航空機が墜落した事故でも、悪天候のなか同機が3回試みた着陸に失敗したあと、バンコクに引き返そうと旋回した際に機首が上がり、失速したことか墜落につながったとみられている。

「旋回」というのは、旅客機にとってそんなに危険な行為なのだろうか。直進していた飛行機が進行方向を変えるときは、まず垂直尾翼についている「方向舵」を使って向きを変える。進行方向に向かって方向舵を右に板れば機首は右に、方向舵を左に振れば機首は左に向きを変える。しかし、方向舵を振っただけでは、機首の向きか変わるだけで機体全体が方向転換するまでには相当な時間がかかってしまう。

そこで、必要になるのが「補助翼」のサポートだ。補助翼は主翼の後縁側についている動翼で、上げたり下げたりすることができる。たとえば、右主翼の補助翼を下げると、自動的に左主翼の補助翼は上がるしくみになっている。このとき、補助翼を下げた右主翼の揚力は増加し翼が上に持ち上がる。

一方、補助翼を上げた左主翼の揚力は減少し、翼が下がる。そして、機体は翼を下げた左側に横滑りするように移動していくのである。飛行機は、この方向舵による機首の方向転換と、補助翼による横滑りのしくみを利用して、効率よく、左あるいは右に旋回する。このとき、機体を傾ける角度(バンク角)を大きくすればするほど、急な旋回が可能になる。

ただし、バンク角が大きくなると、機体にかかる荷重も大きくなる。水平飛行に対し、30度バンクでの旋回では15%増、60度バンクでの旋回では2倍の荷重がかかる。その結果、失速速度も速まっていくのである。「急旋回後、失速して墜落」という経緯は、飛行機にとっては、当然ともいえる筋書きなのだ。

機体が耐えられる荷重の大きさは飛行機の種類によって異なり、戦闘機やアクロバット飛行を行なう小型機では大きいが、旅客機の場合は小さく設定されている。旅客機は運航上、急旋回の必要度が低いからである。それでも、可能な最大バンク角は66度。機体の構造上は、急旋回も「やってやれないことはない」といえそうだ。

しかし、もし旅客機が60度も傾いたらどうなるか。乗客は体が押しつぶされるような感覚を覚え、身動きがほとんどできない状態だ。人によっては、視覚に異常が起こったり、内耳の平衡感覚がおかしくなったりするだろう。こうしたことから、乗客の安全性を考慮し、実際の運航はバンク角35度以内で行なわれている。

— posted by 渉 at 12:03 am